Visiting a Garden : エミール・ガレの庭 in下瀬美術館
Shimose art museum May.20.2025
先日、広島県の西の端、自然のままに樹木が茂る宮島の南西端が見える大竹市に2023年3月に開館した下瀬美術館に行ってきました。2024年ユネスコの建築に与えられるベルサイユ賞で『世界で最も美しい美術館』に選ばれた美術館です。コレクションは、個人のコレクターであった下瀬夫妻の収集したエミール・ガレのガラス作品や印象派、人形作家の作品などがあります。これをベースとして、随時企画展を行う美術館となっています。
広大な埋め立て地を活用したグランド・デザインは、紙芯を使って、阪神・淡路大震災以来、被災者のためにベッドや間仕切りを組み立てるプランを提供したことで有名な坂茂氏によるものです。ここでは、桜色、ターコイズ、ライム、ラベンダー、オレンジ等のコンテナーのような可動展示室が池のような場所に固定され、それを展示内容によって浮かせ、動かせるユニークなものとなっています。訪れた時も作家ごとに展示室が使われ、その空間に入ると、作家の世界観に集中して向き合えるような展示空間であると思いました。
また、本館の内部も外壁も鏡が使われ、きらきらした瀬戸内海の雰囲気を永遠に満喫できる空間となっています。反転した世界も私たちは現実の世界のように受け入れ、空と海のはざまで自然を感じながら、ゆっくり過ごしていました。
庭は、美術館の廊下を出ると、現実の世界が別世界のようにすっと現れました。私が訪れた日には、赤いポピーが風に揺れて出迎えてくれました。このオレンジがかったポピーは、フランスの田舎の草原に咲いている植物だそうで、フランス人にとって野原をイメージさせる花。
バラは赤紫のガリカ・ローズ。 ’カーディナル・ド・リシュリュー’ でしょうか、満開でした。下瀬美術館のガレの作品に『フランスの薔薇』という作品があり、それにちなんでこのバラを選んだのだと思います。調べて行くとイギリスのヴィクトリア時代までは、フレンチ・ローズといえば、このガリカ・ローズのことを指していたそうです。しかし、フランスが原産地ではないそうです。大場秀章先生の『植物学のたのしみ』八坂書房刊によれば、ガリカ・ローズの原産地は、西アジアのコーカサス地方のようです。紀元前から文献に載っているとても古いバラの種類で、ユーラシア大陸西側各地で3000年前ごろより自生、あるいは栽培されていったようです。
庭の全景を見渡すと、池を中心に園路が作ってあり、歩けるようになっています。池泉式回遊庭園という作り方を取り入れています。手前は、ラベンダー色の花々が黄緑色のグラスとともに植えられていいました。遠くの青い山並みを借景として望めます。海抜300m前後。
植物学も学んだエミール・ガレのガラスに表現された植物をイメージして植栽されたようです。ガレは、北斎の浮世絵に描かれた日本の魚、昆虫、植物を作品に取り入れて表現しました。モネ同様、ジャポニスムの影響を受けていました。ガレの生きた時代には、日本の植物もシーボルトなどにより紹介され始めていました。ジャポニスムは、植物のブームにもあったのだと思いました。
奥には きれいな楕円形の池が作られており、頭上には、パーゴラが設置。そこにハニー・サックル、フジが柱に絡まり始めていました。ロビーの完成予想模型から将来的には、フジが楕円形に屋根のように這っていくようです。
建物の南面の盛り土に植えられていた数本の桜は、今季は残念なことに芽吹かなかったようでした。「どうしてだろう。」と家に帰ってからも考えています。2024年の3月、各地で山火事が発生したように「萌芽前の雨が少なかったのでは?」。それからここが埋め立て地であり、海に近いので、台風などで潮風にあたることも多いことが原因であるような気もしてきました。よくよく、考えれば私の住んでいる場所は、ずいぶん海岸から離れていますが、台風のあとは、葉水をかけないと葉がカリカリになってしまう植物もあるからです。
フランスを中心に流行したジャポニスムの時代に表現された芸術は、今を生きる私たち日本人にとっては、親しみを感じる西洋文化への入口です。
そこから、またここにフランス人のエミール・ガレの世界観をイメージして新しい庭を生み出そうと挑戦した方々に敬意を表したいと思います。
多くの方がこの庭を愛されることを願って、この場所をあとにしました。
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