Glassware collection : KARCAGの花瓶
1993年頃、札幌に住む親戚より北一硝子で求めたという球状の花瓶が送られてきました。透明なガラスではなく、中にヒビが入っていて、キラキラするのです。北海道で見た雪や氷のイメージをそのままガラスに閉じ込めたような花瓶。洗った時によくよく見ると、割れたようなヒビ模様は、内側に閉じ込められていて、表面も内側もつるっとしているのです。そして他のガラスの花瓶に比べ、ずっしりと重いのです。
どうやって、作ったのだろう。
とても気に入り、別のデザインのものがあったら、見てみたいと思い、小樽に行く度に、北一硝子で探していました。しかし、同じ製法のものは見当たらす、運河店とは少し離れた本店にも冬の雪道を子どもたちにも付き合ってもらって歩いて訪れたのですが、ありませんでした。
日本の中であちらこちらの雑貨店でもこれと同じ作りのものがないか、探していましたがありませんでした。
しかし2019年の正月、小樽を訪れた際、北一硝子のヨーロッパからのガラス製品を販売しているお店に入った時、「あれっ?」と引き寄せられるように近寄ったレモン色の花瓶がありました。
シンメトリーなバランスの取れた形。ヒビの入り方、表面の硬質な艶。「これは、うちの球状の花瓶と同じ所で作られたものだ。」と確信。
私は、透明のガラス器が好きなので、購入はしませんでしたが、ヨーロッパのどこかで作られたものであることを知ったのでした。
それから、撮影させてもらった写真を手掛かりに画像検索をはじめていくと、ハンガリーのKARCAGというメーカーがこのテクスチャーのガラス器を生産していたということが、わかってきました。
それから、アンティークサイトでも出ていて、欲しいなあと思ってもハンガリー語であったり、アメリカのサイトで送料がずいぶんかかったりするので、手にすることはあきらめていました。
ただ、今まで時々日本のメルカリさんにKARCAGが出ていたことがあったので、先日、検索してみると、ちょうど我が家に合いそうな細身のつぼ型のものが、出されていました。
KARCAGとは、書かれてもいませんが、北一硝子のものとしてお持ちであったようで、これは、私の花瓶と一緒だと思い、間違いはないだろうと購入することにしました。
ちょうど、今年は還暦で、娘が私にプレゼントするからと言って、私に贈ってくれました。
ハンガリーのサイトで2021年に「ベール・グラスの60年」という展覧会のことを紹介していた記事がありました。mutermek.com
翻訳をしてKARCAGについて調べると、このひび割れの技法は1961年に ゾルターン・ヴェレス(Veress Zoltán)とゾルターン・スーハ(Suha Zoltán )が 特許を取った製法で作られたものでベール・グラス(Veil glass)と呼ばれたものでした。
ガラスは3層構造になっており、両側には、高強度、耐熱性、高温溶融性硬質ガラス、真ん中には温度がはるかに低いガラスを使っています。それにより、冷却中に亀裂が入りますが、両側のガラスが非常に強いために爆発することがないそうです。
1964年に、ハンガリーの国際見本市で大賞を受賞。
色ガラスを用いたものも数多く作られ、シンプルな抽象形でバランスの取れたガラス器が製造されました。ちょうど、先日見た映画『ブルータリスト』の美術様式になるようです。
1992年から1997年にかけて、主に日本、アメリカ、フランスからの注文により受注生産されたようです。この記述により、日本にも輸入されていたことがわかりました。
しかしながら、製造コストが高く、2008年工場は閉鎖され、その後取り壊された、とのことです。
ようやく、30年来の謎が解けたような感じがしています。
工場閉鎖という言葉には、絶句。ある時期に作られていたという話は、南宋の青磁の話が頭をよぎりました。
光の反射を封じ込めたベール・グラスの美は、永遠の美です。
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