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2025年5月31日 (土)

Visiting a Garden : エミール・ガレの庭 in下瀬美術館

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Shimose art museum         May.20.2025

 先日、広島県の西の端、自然のままに樹木が茂る宮島の南西端が見える大竹市に2023年3月に開館した下瀬美術館に行ってきました。2024年ユネスコの建築に与えられるベルサイユ賞で『世界で最も美しい美術館』に選ばれた美術館です。コレクションは、個人のコレクターであった下瀬夫妻の収集したエミール・ガレのガラス作品や印象派、人形作家の作品などがあります。これをベースとして、随時企画展を行う美術館となっています。

広大な埋め立て地を活用したグランド・デザインは、紙芯を使って、阪神・淡路大震災以来、被災者のためにベッドや間仕切りを組み立てるプランを提供したことで有名な坂茂氏によるものです。ここでは、桜色、ターコイズ、ライム、ラベンダー、オレンジ等のコンテナーのような可動展示室が池のような場所に固定され、それを展示内容によって浮かせ、動かせるユニークなものとなっています。訪れた時も作家ごとに展示室が使われ、その空間に入ると、作家の世界観に集中して向き合えるような展示空間であると思いました。

また、本館の内部も外壁も鏡が使われ、きらきらした瀬戸内海の雰囲気を永遠に満喫できる空間となっています。反転した世界も私たちは現実の世界のように受け入れ、空と海のはざまで自然を感じながら、ゆっくり過ごしていました。

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庭は、美術館の廊下を出ると、現実の世界が別世界のようにすっと現れました。私が訪れた日には、赤いポピーが風に揺れて出迎えてくれました。このオレンジがかったポピーは、フランスの田舎の草原に咲いている植物だそうで、フランス人にとって野原をイメージさせる花。

バラは赤紫のガリカ・ローズ。 ’カーディナル・ド・リシュリュー’ でしょうか、満開でした。下瀬美術館のガレの作品に『フランスの薔薇』という作品があり、それにちなんでこのバラを選んだのだと思います。調べて行くとイギリスのヴィクトリア時代までは、フレンチ・ローズといえば、このガリカ・ローズのことを指していたそうです。しかし、フランスが原産地ではないそうです。大場秀章先生の『植物学のたのしみ』八坂書房刊によれば、ガリカ・ローズの原産地は、西アジアのコーカサス地方のようです。紀元前から文献に載っているとても古いバラの種類で、ユーラシア大陸西側各地で3000年前ごろより自生、あるいは栽培されていったようです。

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庭の全景を見渡すと、池を中心に園路が作ってあり、歩けるようになっています。池泉式回遊庭園という作り方を取り入れています。手前は、ラベンダー色の花々が黄緑色のグラスとともに植えられていいました。遠くの青い山並みを借景として望めます。海抜300m前後。

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植物学も学んだエミール・ガレのガラスに表現された植物をイメージして植栽されたようです。ガレは、北斎の浮世絵に描かれた日本の魚、昆虫、植物を作品に取り入れて表現しました。モネ同様、ジャポニスムの影響を受けていました。ガレの生きた時代には、日本の植物もシーボルトなどにより紹介され始めていました。ジャポニスムは、植物のブームにもあったのだと思いました。

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奥には きれいな楕円形の池が作られており、頭上には、パーゴラが設置。そこにハニー・サックル、フジが柱に絡まり始めていました。ロビーの完成予想模型から将来的には、フジが楕円形に屋根のように這っていくようです。

建物の南面の盛り土に植えられていた数本の桜は、今季は残念なことに芽吹かなかったようでした。「どうしてだろう。」と家に帰ってからも考えています。2024年の3月、各地で山火事が発生したように「萌芽前の雨が少なかったのでは?」。それからここが埋め立て地であり、海に近いので、台風などで潮風にあたることも多いことが原因であるような気もしてきました。よくよく、考えれば私の住んでいる場所は、ずいぶん海岸から離れていますが、台風のあとは、葉水をかけないと葉がカリカリになってしまう植物もあるからです。

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フランスを中心に流行したジャポニスムの時代に表現された芸術は、今を生きる私たち日本人にとっては、親しみを感じる西洋文化への入口です。

そこから、またここにフランス人のエミール・ガレの世界観をイメージして新しい庭を生み出そうと挑戦した方々に敬意を表したいと思います。

多くの方がこの庭を愛されることを願って、この場所をあとにしました。

 

 

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2025年5月12日 (月)

Creating Garden : 日陰の小さな植え込み vol.4

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BEFORE                              May.4.2025

 春先から5月にかけて、マンションの建物東面の右側のクルメツツジが今年も数本、枯れこんでいることがはっきりわかってきました。枯れた木を抜き、地面に繁茂しているカタバミやドクダミの根をできるだけ取り除くように抜いていくと、ずいぶん寂しくなってしまいました。

緑の流れを右側にも作りたいと思いながら、手持ちの植物の配置転換を考えて作業。

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Juniperus squamata ’Blue Carpet’

シラユキゲシの葉陰ですっかり見えなくなってしまったコニファー ’ブルー・カーペット’を右側に植え替え。枝先の色の違う部分が今年伸びてきた部分。雨が降っているときに日陰の庭を見ると、雨粒がとてもきれいです。

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Athytium niponicum 'Metallica'

葉色の珍しいニシキシダ ’メタリカ’も移動させました。メタリカは、日本にも自生する品種で、暑さ、寒さにとても強いそうです。昨年から植え込み、冬は地上部が枯れこみ、春になって、昨年の4倍ぐらいのボリュームになっています。

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Ligustrum sinense 'Variegatum'

クルメツツジが建物の角で枯れこんでしまった場所。樹高60㎝ぐらいあたりが、ぽっかり抜けてしまったので、挿し木苗で小さなポット苗で買って15年ぐらい育ててきた斑入りのセイヨウイボタノキを地植えすることにしました。鉢植えの管理もできるだけない方が楽。葉の形、樹高など溶け込んで見えました。小さな白い花を咲かせます。

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 Hydrangea paniculata ‘Limelight’ 

そして、もう一つぽっかり空いてしまった場所に「何がいいかな」、と園芸店をのぞいてみると、ノリウツギの鉢植えがありました。たぶん。昨年から置いてあったポット苗で春先、旧枝を春先カットして分岐して花芽が上がり始めたもの。

このような花芽が動き出している苗は、今植え替えると根の成長が始まり、花が上手く上がらないかもしれません、地植えにするのを迷いましたが、プラ鉢に入って窮屈そうなので、つい植え込んでしまいました。どうだろう。

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AFTER                      May.12.2025

クルメツツジは、かろうじて残っているものもありますが、相当弱っています。ノリウツギはここで土や日当たりの様子が合えば、代わりに大きくなってくれるだろうと期待しています。

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北面沿いのクルメツツジも2か所枯れて、抜きました。ここは、枯れた原因が夏の高温、乾燥もあるけれど、電気工事で植木を掘り返された後、根付かなかったのが原因。丸の部分に2022年9月にハンギング用に購入した苗を終わった後、鉢植え育てていた植物を植えてみました。

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Scutellaria javanica 'veranda'

中米原産のシソ科タツナミソウ属 スクテラリア ジャワニカ。名前が本当に覚えられないけれど、丈夫であることは確か。2022年9月、秋のハンギング・バスケット用に購入。ハンギングから鉢植えに植え替えると花が咲かずにいましたが、あきらめないで育てていると昨年、やっと濃紫の花を咲かせた小低木。この品種は、特に、暑さにも寒さにも強いようです。残っているクルメツツジの高さ、葉の形とも違和感がないので、今のところはOK.

植え込みには、赤玉土にバーク堆肥を混ぜたものと元肥になる有機質肥料をそれぞれ入れて元の土と混ぜています。元の土は、目がつまって、泥のようになり、石ころがあちこち入っているような土でした。少しは、水持ちのよい生きた土になってもらいたい。

今後の様子をそれぞれ観察していきたいです。

 

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2025年5月10日 (土)

Creating Garden : 日陰の小さな植え込み vol.3

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                     Apr.22.2025

 昨年の冬からマンションのクルメツツジが枯れこんだ場所をどうにか潤いのある場所になるよう考えて作業しています。4月、地中で越冬していた植物が一斉に葉を広げ、柔らかな緑でいっぱいになりました。カタバミがグラウンド・カバーになってしまいました。

何より、ローメンテナンスは、外せないので、その場所にあった植物を取り入れたいと思って、あれこれ画策中です。

1回目の記事はこちら

2回目の記事はこちら

2024年の12月に植え込んだスキミア、クリスマスローズは、3月まで、花を楽しませてくれました。現在両方とも新しい葉を展開して株を大きくしようとしています。

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Eomecon chionantha シラユキゲシ 中国原産

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Aqilegia flabellata var.pumila ミヤマオダマキ

昨年5月に植え込んだシラユキゲシは、驚くべき繁殖力でした。あちらこちらに根を伸ばし、2株植えた場所の直径1mは、広がりすっと伸ばした花茎30㎝ぐらいから4弁の直径3㎝ぐらいのシンプルな花を咲かせ、風に揺れていました。そして花形が波上にエッジが切れ込んでいるところがユニーク。

知らなかったと思っていたら、実家の庭にも植えてありました。

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その後開花したのは、オダマキ。名前をいったい何人の人に聞かれたことでしょう。スモーキーな青緑の美しい葉からベルのように下向きに咲く姿は、本当に美しい。ベランダの鉢植えだとなかなか継続的に管理できませんでした。

それが、地植えだと寒くなると葉を落とし、春から萌芽。そして今年は、昨年よりもマウントが大きくなり、満足の生育。

こうなると、調子に乗って枯れこんだクルメツツジの部分もなんとかしなくては、と先日いった「横浜フラワー&ガーデニング・ショウ 2025」でもヒントになる植え込みを見させてもらって、「ギボウシ」を入れることにして、会場のブースの江口ナーセリーさんからギボウシを購入して帰りました。

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名前を聞くと、「パトリオットなんだけど、黄斑が出たんだよね!」とご主人。名前は、’Unknouwn’ちゃんとしておき、それを植え込んで流れを延長させていきました。

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Hosta 'Patriot' ギボウシ Yellow variegated leaves

雨粒がきれいです。

今日の記事は、ここまでにします。To be continued。

 

 

 

 

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2025年5月 8日 (木)

Visiting a Garden : アメリカ山公園

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Rosa ’Rainy blue’     Tantau, Germany,  1912

                                                                      May.5.2025

 昨年、訪れるのがちょっと遅かった横浜のアメリカ山公園のバラ園。地下鉄の駅舎の上の部分が屋上緑化ガーデンになっています。エレベーターやエスカレーターで上るといきなり、薄紫のバラ”レイニー・ブルー”が満開の姿が出迎えてくれました。

この場所は海岸段丘の崖の淵にあたり、明治時代は、アメリカ公使館、戦後はアメリカ軍の施設であった場所。地下鉄の駅舎を高くして、その屋上と淵の部分がつながった構造になっています。横浜市が2009年に公園として整備し開園した場所です。バラ園は、人工基盤の場所ですが、日当たり、風通し、そして管理がいいのでしょう、バラそれぞれのが持っている力を存分に発揮しているかのように咲き誇っていました。

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Rosa 'Hamamirai'   Keisei, Japan, 2006

横浜市制150年を記念して名前がつけられた高芯大輪のサーモン・ピンクのハマミライ。各小中学校に3本ずつ、苗木が贈られました。私も何度もこのバラの手入れをしてきました。香りもたっぷりで堂々としています。

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Rosa ’MEEBUL’ Jardins de France  Meilland, FR, 1998

隣には、昨年訪れた時に小山のようにまとまる樹形がよく気に入った”ジャルダン・ドゥ・フランス”。中輪のすっきりしたサーモンがかった彩度高めのピンク。アメリカ山にある「フランスの庭」という???な感じですが。

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Rosa 'Ausmas' Graham Thomas  Austin, UK, 1983

少し白の入る黄色のバラ、グラハム・トーマス。

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Rosa 'Francois Juranville'  Barbier, France, 1903

アーチには、フランソワ・ジュランビル。濃緑色の照葉。中輪の花でランブラー。誘因しやすい品種。

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Rosa ’Meiviolin' Pierre de Ronsard   Meilland, France, 1987

ピエール・ド・ロンサールは、これから、満開。いい感じの開花状態。

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CistusL.  Rockrose  

こんなバラのようなバラ科ではない植物がありました。「ハンニチバナ科 ロック・ローズ スカンベルギー」と書いてありました。 

調べると、日本ではかなり珍しい植物でした。

名前の通り、栄養のない岩場に育つ地中海沿岸地域の石灰質土壌、ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアの植物。

ここで元気に育っているのは、屋上という場所に客土しているので、生育に合っているのではないかなと思いました。

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Rosa ’MEITRONI’ My Garden  Meilland, France, 2008

購入を何度も検討したマイ・ガーデン。美しく咲いていました。

 

アイスバーグの花壇もあり、白、ピンク、バーガンディーのアイスバーグが群植されていました。

 

緩やかな坂道を登っていくと外国人墓地の脇の道につながっていきます。そこを左折すると港の見える公園にたどり着けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2025年5月 6日 (火)

Glassware collection : KARCAGの花瓶

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 1993年頃、札幌に住む親戚より北一硝子で求めたという球状の花瓶が送られてきました。透明なガラスではなく、中にヒビが入っていて、キラキラするのです。北海道で見た雪や氷のイメージをそのままガラスに閉じ込めたような花瓶。洗った時によくよく見ると、割れたようなヒビ模様は、内側に閉じ込められていて、表面も内側もつるっとしているのです。そして他のガラスの花瓶に比べ、ずっしりと重いのです。

どうやって、作ったのだろう。

とても気に入り、別のデザインのものがあったら、見てみたいと思い、小樽に行く度に、北一硝子で探していました。しかし、同じ製法のものは見当たらす、運河店とは少し離れた本店にも冬の雪道を子どもたちにも付き合ってもらって歩いて訪れたのですが、ありませんでした。

日本の中であちらこちらの雑貨店でもこれと同じ作りのものがないか、探していましたがありませんでした。

しかし2019年の正月、小樽を訪れた際、北一硝子のヨーロッパからのガラス製品を販売しているお店に入った時、「あれっ?」と引き寄せられるように近寄ったレモン色の花瓶がありました。

シンメトリーなバランスの取れた形。ヒビの入り方、表面の硬質な艶。「これは、うちの球状の花瓶と同じ所で作られたものだ。」と確信。

私は、透明のガラス器が好きなので、購入はしませんでしたが、ヨーロッパのどこかで作られたものであることを知ったのでした。

それから、撮影させてもらった写真を手掛かりに画像検索をはじめていくと、ハンガリーのKARCAGというメーカーがこのテクスチャーのガラス器を生産していたということが、わかってきました。

それから、アンティークサイトでも出ていて、欲しいなあと思ってもハンガリー語であったり、アメリカのサイトで送料がずいぶんかかったりするので、手にすることはあきらめていました。

ただ、今まで時々日本のメルカリさんにKARCAGが出ていたことがあったので、先日、検索してみると、ちょうど我が家に合いそうな細身のつぼ型のものが、出されていました。

KARCAGとは、書かれてもいませんが、北一硝子のものとしてお持ちであったようで、これは、私の花瓶と一緒だと思い、間違いはないだろうと購入することにしました。

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ちょうど、今年は還暦で、娘が私にプレゼントするからと言って、私に贈ってくれました。

ハンガリーのサイトで2021年に「ベール・グラスの60年」という展覧会のことを紹介していた記事がありました。mutermek.com

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翻訳をしてKARCAGについて調べると、このひび割れの技法は1961年に ゾルターン・ヴェレス(Veress Zoltán)とゾルターン・スーハ(Suha Zoltán )が 特許を取った製法で作られたものでベール・グラス(Veil glass)と呼ばれたものでした。

ガラスは3層構造になっており、両側には、高強度、耐熱性、高温溶融性硬質ガラス、真ん中には温度がはるかに低いガラスを使っています。それにより、冷却中に亀裂が入りますが、両側のガラスが非常に強いために爆発することがないそうです。

1964年に、ハンガリーの国際見本市で大賞を受賞。

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色ガラスを用いたものも数多く作られ、シンプルな抽象形でバランスの取れたガラス器が製造されました。ちょうど、先日見た映画『ブルータリスト』の美術様式になるようです。

1992年から1997年にかけて、主に日本、アメリカ、フランスからの注文により受注生産されたようです。この記述により、日本にも輸入されていたことがわかりました。

しかしながら、製造コストが高く、2008年工場は閉鎖され、その後取り壊された、とのことです。

 

ようやく、30年来の謎が解けたような感じがしています。

工場閉鎖という言葉には、絶句。ある時期に作られていたという話は、南宋の青磁の話が頭をよぎりました。

 

光の反射を封じ込めたベール・グラスの美は、永遠の美です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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